建築家で大成功のリノベーションvol.22 「絵本に囲まれた集いの部屋　～老後の暮らしも見すえて～」建築家：赤桐雅子さん／西田雄一さん

80年代の建築雑誌にも掲載されたRC3階建ての2世帯住宅の空き家となっていた1階部分を改修しました。
2023年完成の"建築家に頼んで大成功"のリノベーション実例を登録建築家自身がご紹介します。

年をとっても、体の自由が利かなくなっても、「自分の家に、自分の町に、長く暮らし続けたい」とは、多くの方が願うことでしょう。そのときに、自分一人ではなく地域に住む子どもや大人と心を通わせて、共に過ごせる時間をもてれば、それはとても豊かなことだと思いませんか。

この計画は、「（児童）文庫をやりたい」というHさんの長年の夢が元にありました。ご自身の退職が近くなり、「1階部分を改修して、老後は1階だけで生活できるようにしておきたい」と考えた際、長く地域に貢献してきたHさんは、自身が集めてきた絵本を地域の子どもや大人に一緒に楽しんでいただき、同時に友人との趣味の教室や集まりにも使える場所にすることを思い描き、改修に踏み出したそうです。

既存の建築は、建築家により端正にデザインされていて、新築時に植えられたクロガネモチの木が大きく育ち、町に緑陰をつくっていました。
私たちは設計にあたり、元の建築デザインの要を引き継ぎながら、1階の内装全てと庭側の外壁を解体し、長年この場所で暮らしてきたHさんはもちろん、訪れる人にとっても使いやすい、新たなデザインを求めて話し合いを行い、完成に至りました。

5月にはOPEN企画として音楽と絵本を楽しむ会が催され、多くの方が集い、弦楽器の調べと絵本を読みきかせる声がやさしく響く午後となりました。

その後、月に一度の絵本の集いからゆっくりと、訪れる人の輪は広がっています。Ｈさんのお人柄に惹かれて集まる方、絵本そのものを楽しんでいかれる方、地域に開かれた場所づくりに共感をもって下支えしてくださる方。新しく近所のお父さんとお子さんが絵本を読みに寄ってくれることも、とても嬉しいと仰っていました。

絵本に囲まれた集いの部屋は、道から少し隠れて見え過ぎず、かつ明るい空間に。

1冊1冊の絵本の表紙は力強く、インテリアの主役に見えることで手にとりやすくなってます。
本棚と一体になったアイランドキッチン。

木漏れ日の差し込む、集いの部屋。
本棚に囲まれて読書

奥に見えるのがプライベートな寝室エリアの引戸。
音楽の集いの際には楽屋になります。

既存建築のデザインであるオチョコ柱を美しく取り込んで。

玄関引き戸とテラス窓は、段差も小さく、出入りしやすく

（左）木の手摺を各所に。
（右）シンクは寄りかかって作業も可能。キッチン収納は訪れた人も見渡して分かりやすい引違戸に。

子ども達が楽しめるようした「大樹へのアプローチ」「ビー玉たんぽぽ」「虫のガスメーター」

この場所に、Hさんとその周りの方々が集い、慣れ親しんだこの地域で豊かな日々を過ごしていかれることを願います。
そして、このような個人の想いから始まる集いの場が地域に根を張り、1つまた1つと増えて町の風景になっていくことを応援していきたいと思います。

詳細情報

●家族構成：単家族
●延べ床面積：1階部分64㎡
●竣工：2023年1月
●構造：RC造
●Photo：西田雄一

建築家：赤桐雅子さん／西田雄一さん

1999年より、夫婦で建築設計事務所を続けています。住宅設計は、現代において最も分業化されていない仕事の一つです。住み手の暮らしと敷地を理解して空間を考え、図面や模型にして伝達し、製作された実物を確認する･･･と、切れ目無く多岐にわたり、随所に創意工夫が生まれます。本を読んだり出掛けたり、子育てや地域での暮らしも一つ一つが学びになり・・・楽しんでいる毎日です。

建築家プロフィール