「食卓」や「台所」が印象的だった住宅事例を、建築家自身の言葉で紹介します。第1回は建築家 東信洋さん。本格的なキッチンが素敵なお宅です。
相模原市で私が設計者として家づくりのお手伝いをさせていただいたお住まいです。
出会いはOZONEの面談でした。設計提案に先立って、建主さんご家族と設計者がこれから計画する理想の住まいについてなど、いろいろなお話をさせていただく場です。
その中でとくに印象に残っているのが、すでにご家族の中でかなり明解にテーマが決まっていたことでした。
そのテーマは「食」。「食」を中心とした家づくりをしたい、ということでした。
奥様はご自宅で料理やお菓子作りの教室をされていました。当時のお宅は1階の奥にキッチンがありやや狭く暗いことがお悩みとのことで、今回の家づくりではキッチンを充実させ、明るい白いお住まいにしたいとおっしゃっていました。
一方で建物の面積には法律的な制限もあり1,2階合わせて20坪台の面積しか確保できないため、通常はキッチンもコンパクトにしつつ他の部屋を確保するのが通例ですが、今回はキッチンやパントリーをできるだけ充実させ、例えばリビングは無くても良いという方向性が固まりました。
光を取り入れやすいこと、屋根勾配を利用して空間が大きくとれることからメインの空間であるLDKは2階に配置しました。そのほか小屋裏収納をギリギリまで大きく確保しコンパクトな面積を余すところなく利用するなど工夫をしました。
出来上がった建物はまさに「食」を中心としたお住まいと言えるものになったと思います。
コの字型の大きなキッチンは、業務用として使用されているオーブンやレンジを組み合わせ、ガスレンジ5口にIHクッキングヒーターを合わせた仕様としています。
業務用のオーブンは2つあり、写真は右側のオーブンから鍋を取り出すところです。
また奥にはパントリーを配置し、大きなキッチンを支えるバックスペースも確保しています。
コの字型の一方は、料理教室の生徒さんが奥様の手元を見やすいように、ダイニングに面したレイアウトにしました。
ダイニングには今回の計画のために大きな白いテーブルを設計して設置し、ご家族が集う中心的な役割としました。料理教室の生徒さんたちが複数集まっても対応できるとても大きなテーブルです。
建物が使われ始めてから何回かランチにお招きいただきましたが、ご家族が気持ちよく「食」の時間を過ごされているのが感じられた楽しい時間でした。
その後、料理教室もますます充実され、奥様はお近くにお菓子のお店を出店されるなど家の中にとどまらず「食」の活動を広げられています。
このお住まいがきっかけとなった部分も少しはあったと思いますので、設計者として携わらせていただきとても嬉しく思っています。
シンプルで気持ちよく肩ひじ張らない家というものがあれば、そういう家にできるだけ近付けるべく日々住宅を設計しています。「住む人がほっとするような空間」そんな空間を実現するお手伝いができればと思っています。
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(2021.12記。撮影 大槻夏路(外観と東さんの写真以外))
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